長年苦労を共にされた妻の挨拶

『本日は、雨の中にもかかわらず、夫栄蔵のためにご会葬賜り、ありがとうございました。私どもが連れ添いまして42年になります。おかげさまで娘二人も成人し、孫も5人恵まれました。恵まれた人生であったと感謝しております。「お父さんありがとう」と言ってあげたいと思います。
これも、ここにお集まりの皆様に支えられてのことと心より御礼申し上げます。30年前のことが昨日のように思い出されます。
サラリーマンだった夫が家に帰るなり突然「会社辞めてきた」と言うのです。長女が小学1年のとき、下の娘は4歳です。もうビックリしました。でも、夫の固い意思が目から読み取れ、思わず黙ってしまいました。
翌日からが戦争でした。夫は背広を作業服に着替えて仕入れに、販売にととびまわりました。帳簿づけは深夜、二人で算盤を入れました。「苦労なさったでしょう」と聞かれるのですが、そんなことはありません。
夫の帰りを待っているだけの生活から、二人で力を合わせる生活は、お金は不足しておりましたが、充実したものでした。夫は幸せ者だと思います。人生を走りきり、こうして、皆様に暖かく見守られ旅立つことができるのですから。本日はありがとうございました。』
悲しいことは事実でしょうが、充実した人生を走りきった夫を想い、その悲しみを乗り越えようとする心情が表現されていると思います。この例のように、必ずしも典型にこだわる必要はないのです。